棒読みのエオリアン

2019/ 08/ 13 (火)

 お盆休み。昨日今日と、昼間はひとりでのんびりしている。座ってばかりで久しぶりに腰が痛い。しばらくレッスンが休みだからとサボっていたピアノも練習した。一発目、すぐに腕の筋肉が緊張して痛くなった。しばらくすれば、指も腕も楽なポジションを思い出して勝手に動き出す。

 

 少しだけ手をつけていたショパンの「エオリアンハープ」に真面目に取り組み始めてどれくらい経ったのか覚えていないけれど、暗譜して一通り弾けるようにはなっている。が、テンポがまだ原曲まで上がっていない。右手も左手もアルペジオの連続で、それこそ筋トレのように練習して、少しずつ速く弾けるようになってきたけれど、もどかしい。右手の小指が飛躍するところで外すし、速度だけを追求すると、単なる早口のつまらないおしゃべりみたいになる。

 

 そういえば「早口言葉」を指導していると、自信を持ってトゥルルルル〜とテキストを「早く」読める人の中には、何を言っているのか分からない人がままある。ただ単に言葉が滑っていくだけだし声も小さい。むしろ早口言葉に苦手意識があって、最初はゆっくりひとつずつ発音していくような人の方が、練習しているうちに滑舌も鍛えられ、最終的には、なめらかに一息で言えるところに近づいていく。

 

 日本語を「読む」だけではなく「語り」にしていくためには、声の強弱、高低、緩急、様々に使い分けて表現することが必要だ。リズムや間のとり方も大事だ。同じテキストを読んでも、必ず人によって違いが出る。朗読も音楽も一緒だなあと、たびたび思う。

 

 さて、夕飯の支度を始めるまでもう少し。テンポを落として練習してみよう。

にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
(にほんブログ村にささやかに参加しています)

アイちゃんはタローの嫁に行ったのかどうか

2019/ 08/ 12 (月)

 くすり屋の娘のアイちゃんは町一番の美人さんだ。中学の時、先生がそう言った。背がすらっと高くて、長い髪をいつも後ろでひとつに結んでいた。(校則で、肩につく長さの髪は結ばなければならなかった) 勉強やスポーツはそこそこで、特に目立って男子にモテるということもなかったけれど、たぶん同年代の異性から見たら近寄りがたかったんだろう。私もアイちゃんを、美人だし色っぽいなーとこっそり見ているだけだった(話すときにはおくびにも出さない)。ほとんど男子の目線だ。

 

 どうしてそんなことを思い出したかというと、地元の駅からバスに乗って、そのバスがアイちゃんのくすり屋さんの前を通ったからだ。様変わりしていく商店街の中で、小さなくすり屋さんは昔のままだった。薄暗い店内に人は見えなかった。くすり屋といっても、店の半分は化粧品を扱っていて、友だちと初めて化粧を習ったり買ったりしたのもアイちゃんのくすり屋さんだった。

 

 バスは国道の方に曲がる。色っぽいといえば、その辺りに住んでいたハラちゃんも背が高くて色っぽかった。制服のシャツの色がみんなとは微妙に違ってて、しかもその第2ボタンと第3ボタンの間に、ふとした拍子に隙間ができてブラが見えるくらい、ハラちゃんの胸は大きかった。どうしたらあんなふうに前たてがぱっくり開くんだろうと工夫したけれど、私にはまるで無理だったっけ。

 

 ハラちゃんは勉強はあんまりで、運動もそこそこで、アイちゃん同様、やっぱり特に目立つ存在ではなかったのだけど、色っぽいなーと思って私は見ていた。これもまるで男子の目線であるが、当の男子が何気なく「アイちゃん美人」とか「ハラ色っぺー」なんて言えば、もうキミとは口きいてやらんと臍を曲げるくらいには私も女子だった。

 

 ふたりはその後どんな人生を歩んだだろう。2秒だけ想像した。

 

 色っぽいといえば最近、趣味の仲間のムライさんについて先生が、「ムライさんの声はすごく色っぽい」と言うのを聞いて、初めて「ほー、そうなんだ」と気づかされた。そう言われればそうだ。そうなんだ。私に色気は一生遠い。

 

にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
(にほんブログ村にささやかに参加しています)

他人の扇子で涼むなかれ

2019/ 08/ 09 (金)

 スギさんは途中の駅で快速に乗り換える。私はそのまま鈍行で行くから、席が空いていれば座りたい。「座りますね」とちゃちゃっと座ったらスギさんは「ああ、そうか(長く乗るんだよね)」と隣りに座ってパタパタと扇子を使うから風が来る。不快じゃない。涼しい。めちゃくちゃ涼しい。自分で仰ぐよりずっと力強くいい風が来るから、私はちゃっかり自分の扇子を閉じた。

 

 スギさんは後輩だ。でも、年はたぶん5つ以上上だ。そこに私の微妙な「甘え」が生まれる。いんや、昔っからスキがあれば男性に甘えて生きてきたのだ。そういう人間だよ私は。ああ、快適。

 

 今しがた終えてきた講座のことや趣味のことなどしゃべりながら数駅が過ぎた。駅まで炎天下を歩いてきたから、やっと座れて人心地ついた。「快適だなぁー」とパタパタしながらスギさんも言って、俺もこのまま座って各駅で行こうかという素振りを見せるから私は、「でも、ずっと座っているのもお尻が熱いね」などと言う。

 

 伝わった?
「じゃあ、おつかれさまでしたー」と、スギさんは予定の駅で腰を上げた。ナチュラルに人にやさしく生きてきた人なんだろう。もしくは、一刻でも早くおうちに帰りたかったかな。

 

 扉が閉じて、目を閉じた。ひとりになれてほっとした。本でも読もうかな、寝ようかな。
 風が来なくてももう暑くなかった。

にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
(にほんブログ村にささやかに参加しています)