会うは別れの

2020/ 02/ 17 (月)

 

 交差点で信号待ちをしながらマフラーを畳んでいる人がいた。伸ばした両腕の間に垂らされた赤いマフラーが、冬の店じまいかのように、きちっきちっと畳まれていく。今日は春の暖かさだった。

 

 ピアノのレッスンを一ヶ月休むことにしたのだが、4月に再開する頃には、モトノ先生が戻って来られるかもしれないと聞いた。嬉しいことだが、そうなると、イマノ先生とはお別れだ。来月休むのが惜しくなってしまった。

 

 モトノ先生が病気で長いお休みに入ったのは去年の夏で、秋からイマノ先生にお世話になった。最初は教え方に慣れなかったのだが、弾き方の癖を指摘されたりして目からウロコの場面も多々あって、今は、この幸せがずっと続くと思っていたのにお別れなのね……な気分だ。もちろん、モトノ先生よりイマノ先生がいいというわけではない。それぞれに良いところが違うという話なのだけれど。

 

 朗読の方にもやめる人はいるから、別れはたびたびある。そのたびに、ちっちゃな穴がポッカリ空いて、たいそうがっかりする。でも、穴はじきに消えるんだな。一週間に一度とか「会った時だけ」の間柄だからだろう。いつの間にか忘れてしまって、忘れていた自分に気づいてこの薄情者と思ったりもする。

 

 心の中に棲み着いて片時も忘れられない……というわけではないから、本当の穴は空かない。季節の変わり目に、丁寧に畳んで仕舞うマフラーのよう。しばらくは、すぐ触れられるところに置かれている。しばらくは。

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ジャネット・リンが微笑む部屋

2020/ 02/ 14 (金)

 

 ベランダで沈丁花が咲き始めている。写真を撮ろうとしゃがんだら、いい匂いがした。白い沈丁花の方の蕾はまだ固い。一緒の鉢に植えているけど、一緒に咲くことはない。

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 寝ているときに見る定番の夢のひとつに、大きな洋館に住んでいる夢がある。広い部屋がいくつもあったり、今まで知らなかった部屋を見つけたりする夢だ。大抵は入り組んだ間取りになっていて、畳の部屋もあれば、キッチンも複数ある。キッチンは必ず真新しい。あるいは、屋根裏のようなところを匍匐前進して、見知らぬ部屋に出たりする。まあ、どんな潜在意識の現れなのかはさておいて、先日、本当に「知らなかった部屋」と出会った。

 

 それは夫の実家の2階の奥にあった。住む人が居なくなって取り壊すことが決まり、片付けの手伝いの真似事で入ったときのことだ。もともと2階にはあまり上がったことがなく、上がってもいつも決まった部屋に入るばかりで、奥の部屋に足を踏み入れたことはほとんどなかった。そこで、箱入りのまま積んである食器をチェックしていると、夫が「ここ、しばらく開けてないな」と、一間の押し入れの横に並んだ半間の襖を開けて入っていった。驚く私に「知らなかったっけ? ここにトイレもあったんだよ、とっくに潰したけど」と夫。そういえば生前に義母が「昔は若い衆が上に住んでいたからどうたらこうたら」と話すのを聞いたことがあった。それがどこにあるかなど気にしたこともなかったが、隠し部屋のように存在していたのね。

 

 雨戸も立てたままだし電気も暗い。恐る恐る覗き込むと1畳ほどの廊下があって、奥にもうひとつ扉がある。スリッパでつま先立ちして進むと、小さな窓がひとつあるだけの、横に細長い部屋が現れた。ちょうど、押し入れの真裏のようだ。壁紙は、昔こういうのあったなぁという、ビニールの織物のような感じで、「銀盤の妖精」ジャネット・リンの切り抜きが画鋲で留めてあるのも、いかにも古かった。

 

「夢で見たことがある!」と思った。奥に山積みになっている荷物を登れば天井裏に上がれて、私はこの部屋から逃げ出すことができるのだ。夢の中の天井裏は汚くもなんともないが、うわー、実際にそんなことをするなんて、想像したくもない。なんだか怖くなって、そそくさとその部屋を出た。子どもたちに話したら面白がって、自分たちも見たい見たいと盛り上がったが、取り壊しはもうすぐだ。

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面白くもなんもない

2020/ 02/ 13 (木)

 スズメが賑やかにさえずる声に誘われて脇道を覗くと、その先に白い梅が咲いていた。もう、花の季節だ。そういえば今年はロウバイを見る機会がなかった。見に行こうという気持ちにならなかったというか、思いつきもしなかった。余裕がないなぁ……。

 

 今日は久しぶりに予定のない普通の日だった。ひとりで何をしようか、暖かいからどこか行こうかと3秒だけ考えて、家にいた。一応、やるべきことを5つリストアップしていたけれど、ひとつしかできないまま夕方だ。なんだなんだ、今日は何をしてたんだ?

 

 もったいないことしたなぁと思う。せっかくの休みなのに、だめだなぁとどんよりしてくる。でも、結局、自分が一番したいことをしたってことかな。なんにもしたくなかったもん。何の達成感もないとか、後悔することないのかもしれない。ネットで買い物して海外ドラマ見てウトウト。それだけだった日バンザイ。

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